自律神経失調症/パニック障害 針灸治療は自律神経を整えます
「自律神経失調症とお医者さんに言われました。でも自律神経失調症って何ですか?」このような疑問をもたれて来院する患者さんが、近年はとても増えています。
自律神経失調症、パニック障害で悩まれている方に分かりやすく解説をしていきたいと思います。
- 自律神経失調症はどんな症状のこと?
- 自律神経は、勝手に身体の調節をしてくれている神経です
- 自律神経が乱れるとどうして症状がでるの?
- どうして自律神経は乱れるの?
- どうして女性は自律神経が乱れやすいの?
- パニック障害とは
- 自律神経の緊張を解くコツは?
- 自律神経失調症の鍼灸治療はどんなの?
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1.自律神経失調症はどんな症状のこと?
病院に行って検査をしてもどこも悪いところが見つからないけれど、体にいくつかの自律神経症状(自律神経が緊張して起こる異常な症状)が起こることを自律神経失調症と言われます。自律神経失調症の症状は「不定愁訴(ふていしゅうそ)」と呼ばれたりもします。
例えば、
- めまいやフワフワした感じやクラッとする平衡失調
- 寝つきが悪く眠りが浅い不眠症
- 度重なる頭痛
- 休んでも疲れがとれない疲労感
- 急にドキドキ動悸がする
- 胸苦しい
- 呼吸が浅い
- 必要以上の足の冷え
- 急な発汗
- ひどい寝汗
- 食事を気をつけても改善されない下痢や便秘
- 胃がもたれて食べれない食欲不振
- 原因不明の生理周期の不安
などが自律神経失調症の症状に含まれます。
一度に複数の症状が出ることもとても多いです。
検査をしても器質的な異常がみつからないので、ご本人は原因がわからずに不安がつのり、ますます調子が悪くなるということも少なくありません。
2.自律神経は、勝手に体の調節をしてくれている神経です
つらい自律神経失調症の症状を引き起こしてしまう「自律神経」とはどんなものなのでしょうか。
少し難しいはなしになりますが、ここを理解することであなたを悩ます症状を解決する方法がみえてきます。頑張って読み砕いてみてください。
神経は大まかに3種類に分けられます。
種類 | 働き |
感覚神経 | 痛みやかゆみ、温冷や圧迫感や触れていることを脳に認識させる |
運動神経 | 手を動かしたり歩いたり筋肉を動かす |
自律神経 | ひとことで表すと「勝手に体の調節をしてくれている神経」 |
また、自律神経は大きく3つの働きで体の調節をしています。
全ての内臓ひとつひとつにつながり、個々の内臓の働きを調節しています
心臓をトントンとリズムよく動かしたり、食べ物が入れば胃の粘膜から胃液を分泌させて胃をグチャグチャと動かします。
これらの動きは全て中枢(脳・脊髄)から各内臓に伸びた自律神経の指令でなされています。
血流を管理しています
自律神経の細い枝は血管の管(くだ)や皮膚の毛穴にまで伸びているのです。
例えば、運動をするときは筋肉にたくさんの酸素が必要になるので、自律神経が筋肉にある血管を拡張させて酸素の豊富な血液を筋肉に送り込めるようにします。一方で筋肉以外の粘膜や内臓の血管を細く狭くして血流を無理のない範囲で最小限にします。
この状態で筋肉は酸素を使って思う存分動けるのです。
寝ているときなどは、逆に筋肉の血流量を最小限にして、内臓や皮膚や粘膜の血流を充分にいきわたらせることにより、内臓の機能を整えて免疫力を蓄えて疲労を回復したり、お肌の再生を活発にしてくれます。
このように全身の血液量を脳の視床下部と呼ばれる自律神経のコントロールタワーで把握しながら、自律神経が体のすみずみまで血液の分配を調節してくれています。
体温を調節しています
皮膚の毛穴に伸びた自律神経は、暑い日には毛穴から汗をだして体温が上がり過ぎないようにします。寒い日には毛穴をキュッと閉じて体温が外気にうばわれないようにしてくれます。
これらの調節で体温が一定に保たれ、体がスムーズに機能するようにできています。
「自律」とは「意識しなくても働いている」という意味で、自律神経は昼夜問わずに無意識に働いてくれています。ということは意識的に働きをどうこうできる神経ではないのでケアが難しいとも言えます。
3.自律神経が乱れるとどうして症状がでるの?
したがって、自律神経がうまく機能してくれないと体にさまざまな不具合がでてきます。
特に、内臓の働きが乱れ、血流や体温調節に顕著に不具合がでます。
例えば心臓のトントンと打つ鼓動が少しリズムを乱してしまい、トントン‥‥トンなどととんでしまうことがあります。期外収縮と呼ばれる不整脈の一種で、分かりやすい例です。激しく体を動かしているわけでもないのに鼓動がドキドキと早くなったりする動悸などもそうです。呼吸のリズムもとりにくくなり、ひどくなると過呼吸になることもあります。内臓ひとつひとつがスムーズに機能してくれなくなるので、胃にいつまでも食べ物が残って胃がムカムカしたり、腸に食べ物が移動しても腸が動いてくれなくて便秘になったりします。逆に必要以上の腸液がでたり食べ物から水分を吸収するのがへたになり下痢になることもあります。内臓の機能が低下すると免疫力も落ちるので、疲れを回復しにくくなったりカゼをひきやすくなったりします。
血流や体温の管理もへたになるので、原因なしに血圧が高くなったり、または低くなったりします。たいして暑くもないのに、外から室内に入ってちょっと気温が変わっただけでドッと汗がでたり、のぼせたりします。手足がいくら温めてもすぐに冷えてしまう異常な冷えを感じたりもします。耳の中などの末梢の血流も悪くなるので、三半規管が弱くなってめまいが起きたり、耳鳴りが出たり耳が詰まったりします。自律神経の緊張は体を興奮させて眠りを妨げますので不眠症にもつながっていきます。
このように、内臓や体の器質的な問題は無いのに、自律神経の乱れによって働きがおかしくなってしまうことを自律神経症状と言い、不定愁訴と呼んだりします。
4.どうして自律神経は乱れるの?
自律神経は、緊張したり緊張をほどいたりしながら体の調節をして働いてくれています。特に体が「頑張っているとき」は自律神経が緊張しています。お仕事しているとき、勉強しているとき、お料理や掃除をしているとき、急いでいるとき、人付き合いで気を使っているときなども。つまり軽いストレス状態にあるときですね。そして、リラックスしているときや、寝ているとき、楽しいことをしているときは自律神経の緊張も解けています。自律神経は緊張したり緊張を緩めたりしてシーソーのように働いて体の調節をしているので、緊張しっぱなしでも緊張しなさすぎでも、体調がすぐれなくなる傾向があります。
自律神経は脳(心)と身体をつないで身体を調節してくれる神経なので、心がイライラしているとき、怒っているとき(声に出さなくても心に怒りがあるとき)、不安なとき、落ち込んでいるとき、悲しいときなども自律神経を緊張させてしまいます。このようなマイナスの感情もストレスとなって自律神経を緊張させて体を変化させてしまうことを知っておくことは、自律神経失調症、パニック障害を改善していく上でとても大切なポイントになります。
自律神経は、心の緊張度合いを感じながら上手に心と体を結びながら体の調節をしてくれているのです。そして、現代の生活においては、昔にくらべて自律神経が緊張する場面が多いように思われます。朝早くから夜遅くまで頑張る時間が昔より長くなっていますね。情報量も多くなりましたし、生活スタイルも多様化して、こうしていれば安心ということよりも、人それぞれにさまざまななチョイスがある分、選んだり迷ったりすることが多いですね。人付き合いも複雑ですし、ストレスの元になってしまいがちなものが自分の周りを取り囲んでいるようです。
上手にストレスと付き合い解消できているうちは大丈夫ですが、多くのストレスを背負い込んでしまった状態が長く続くと、自律神経は緊張する場面を多く強いられてしまって、緊張を緩めることがヘタになってしまうようです。この状態を『自律神経の乱れ』と呼びます。自律神経の緊張状態が続き緩むことができなくなった状態、その状態が自律神経失調症を生む原因なのです。
5.どうして女性は自律神経が乱れやすいの?
当院には男性も女性も自律神経失調症、パニック障害の改善に来院されますが、やはり女性の方が多いです。これにはホルモンの分泌システムの男女の違いが影響していると言えます。男性でも女性でもホルモンはありますが、男性はホルモンの分泌量がいつも比較的安定しているのに対し、女性はエストロジェンやプロジェステロンなどの性差ホルモンが周期的にアップダウンするために体が大きく変動します。それは毎月の月経によるPMSであったり、産前のマタニティーブルーや産後うつ、閉経後の更年期症状などに顕著に現れるように、ガツーンと大きく体を変化させます。自律神経はそのときの体の状態を感じながら調節しているので(フィードバック調節)、ホルモンにより大きく変化した体に自律神経も影響されて乱れがちになることは当然起こることなのです。
もうひとつ、自律神経のコントロールタワー(中枢)は脳幹部の視床下部というところにあって、ホルモンの中枢も視床下部でありとても近いところにあるために、お互いの調子が影響しやすいということも考えられています。
6.パニック障害とは
自律神経症状がひどくなると、自律神経発作が起こるようになります。めまいや動悸、過呼吸や身体の過緊張(ぞわぞわした感じ)などです。
自律神経発作は苦手な環境や場面で不安感が一気に上がると起こりやすくなります。自律神経は脳(心)と身体をつなぐ神経なので、脳と身体の神経ルートができあがってしまうと、その苦手な環境下におかれただけで自律神経発作が起こるようになります。
これをパニック障害と言います。
パニック障害は、脳が苦手な環境を認識したときに、自律神経が過敏に反応して身体に変調をきたすものなので、身体そのものを強くしていくことと、脳から自律神経への過敏性をとるためのマインドフルネスなどもとても効果的です。当院ではローラー針を使ったマインドフルネスも指導させていただいています。
7.自律神経の緊張を解くコツは?
自律神経症状がなかなか解消されない要因として、自律神経症状のつらさそのものや、治らないのではないかという不安が大きなストレスとなり、それが更に自律神経を緊張させてしまって、さらに自律神経症状をひどくさせるという悪循環のスパイラルに陥ってしまうということがよくあります。この状態では、いくら鍼灸治療を定期的に重ねても、なかなか状態が上向いてこない場合もありますので、とても大事なことです。
まずは、体と心を結ぶ自律神経についてよく理解し、自分にとって何が自律神経の緊張の原因になっているのかをよく紐ほどいてみましょう。そして、ライフスタイルや生活習慣、生活環境やご自身の考え方など、改善していくポイントを時間をかけながら丁寧に見定めて、受け入れていくことが大切です。このプロセスを経験されることで、自律神経症状が治まりやすくなるケースがよくあります。このプロセスをおざなりにすると、鍼灸治療で一度は症状が改善しても、また元に戻ってしまうこともあるので、とても大切なポイントです。
忙しくしすぎていませんか? お若いころは平気だった無理も、少しずつ同じようにはできなくなって当然です。スケジュールはパンパンではありませんか? 次から次へと予定を入れてはいませんか? 忙しくしてないと落ち着かない…気持ちはそうでも、体はついていけないかもしれません。
「前はチャキチャキ動けていたのに」と自分を責めてはいませんか? 「こんなはずじゃなかった、前は誰よりも元気だったのに」と自分を責めていませんか? 「昔は友人からも家族からも頼られる自分だったのに、今は体がしんどくて自分のことさえも満足にできない」と責めていませんか?
これらのマイナスな感情がさらにストレスとなって、自律神経症状が改善されにくい悪循環のスパイラルにはまり込んでいるかもしれません。
本当は嫌なことでもしなければならないことは日常においてありますね。でもそれがあなたにとって思っている以上に大きいストレスになっていませんか? ご自身が頭で納得しているようなことでも、不本意な状態があまりに長く続くと思った以上にストレスになります。
自律神経の過緊張が始まる原因はたいていひとつではありません。いくつかのストレス要因が複雑に絡まっていることもよくあります。時間をかけてゆっくり紐解いてみてください。
自律神経が緩んでいるとき、緩みやすいときはどんなときかも心にとめておいて、生活に取り入れていきましょう。寝ているときは神経も緩んで内臓も活発に動きます。ゆったりと好きな音楽を聴いているとき。好きな食べ物をおいしいなぁと思いながら食べているとき。気の置けない家族と楽しく食事しているとき。いやいやでなく軽い運動を楽しんでいるとき。好きな友人とおしゃべりしているとき。お仕事のあとで「きょうも頑張ったなぁ」と充実感を感じているときなど。つまり、気分よくやっているときは自律神経もそこそこ整っているようです。また、おかしくて笑っているときなどはセロトニンなどの脳内物質が分泌されるので、体も補修されやすくなり、症状も改善に向かいやすくなることが分かっています。
8.自律神経失調症/パニック障害の鍼灸治療はどんなの?
胃や腸や心臓などの内臓そのものの機能回復を目的とした治療と、自律神経そのものの乱れを整える治療の両方を行うことでかなりつらさが解消されます。
めまい、耳鳴り、不眠、頭痛、発汗、冷えなどには針やローラー針による軽い刺激を、胃もたれ、下痢、便秘、生理不順などのお腹の症状には温かい温灸が効果的です。これらの刺激は血管につながる交感神経の緊張を休めて血流の改善にとても有効です。血流が良くなりますと、器官や内臓の粘膜が修復されやすくなりますので、症状の軽減につながっていきます。
特に自律神経の緊張を生む大きな要因として平衡感覚の失調(めまい、三半規管の弱さ)に着目しています。ご本人に自覚が無くても、軽い平衡失調は多くの自律神経症状を引き起こすケースがとても多いからです。平衡失調(めまい)の鍼灸治療によりカラダ全体の自律神経の緊張を解き、自律神経のアップダウンを正常なものに整えていきます。
「どのお医者さんに行ってもどこも悪くないと言われます。私はどうしたらいいのでしょうか?」あなたのゆううつな症状は自律神経を整えることで解消する可能性があります。あきらめないで一緒にとり組みましょう。